【離人症性障害】
今回は解離性障害のうちの離人症性障害の事例をお伝えします。
Tさんは27歳の女性で、なんでもない時に急に涙が止まらなくなったりして仕事にならず困っているという悩みでいらっしゃいました。それから自分の周りに見えない膜のようなものがある感じがして、目の前で話されているのになんだか現実感がなく遠く感じてしまうということもあるそうです。
今の会社に勤めて4年、男性の多い中で仕事をしており、常に成果を求められ、帰りは終電や始発になることもあり、1ヶ月の残業時間が100時間を越えることも稀ではないとのこと。始発で帰ったときは1時間程仮眠をとってからシャワーを浴び、またすぐ出勤するということです。最近仕事の効率が落ちて上司から叱責を受けることが多くなり、自分は仕事でミスばかりする、上司や会社に迷惑をかけてしまっているから申し訳ないと思うともおっしゃっていました。
家庭環境をお聞きしてみますと、両親と4歳年上の兄が1人いて、現在は1人暮らしをしています。父親は亭主関白で、厳格なタイプ。お酒を飲むと小言が始まり、徐々にエスカレートして最後は怒鳴り散らして母を罵倒する言葉を吐いていました。母はそんな父にくちごたえもせず従っていましたが、Tさんにだけは父の悪口と離婚したいなどの話をこぼしていたそうです。兄はあまり喋らない大人しい性格で、父の実家からは男の子だというだけで何かと大事にされていました。
お話を伺っていくと、こうした家庭環境で育ったため、Tさんは男性に負けたくない、女である自分は価値がないとどこかで思ってしまっている、経済力がないと自己主張してはいけない、などと感じながら生きてきたことがわかってきました。そのため男社会の会社で男性に負けない様にとがむしゃらに仕事をし、体に無理を強いてきたのでした。ところが仕事でミスをし、上司に叱られる。恐れていたことが起き、過去の辛い状況を身体が察知して反応し、自分への価値を失う恐怖から感覚を麻痺させる“解離”を起こしたのです。
「そうだったんだ、こんな風に考えていたから自分は無理してたんだ」と頭では理解をすることが出来ました。でも何故か心からはそう思えず、自分を情けないダメな人間だと責め続けていました。仕事が出来ない自分を許すことが出来ませんでした。
“頭ではわかっているけど、心がそう思えない”
FAPはそんな時に使います。
FAP療法は身体感覚での深いレベルで共感をしていきます。身体が“わかってもらえる”、“話しても安全だ”と感じると感覚を取り戻そうとします。解離が解けてくるのです。
すると抱いていた感情が生々しく感じられる様になってきます。そして湧いてきたのは“怒り”でした。
Tさんは家庭環境の中で、父(=男性・権力のある者)に対する恐怖と怒り、母に対するいたわりの気持ちと父には何も言わないことへの不満、兄に対しては男というだけで自分と扱いが違うことへの怒りと羨望を抱えてきました。でも母が可哀想だったため母には相談できず、怒りを爆発させることを罪だと感じ、一人でその思いを胸の底に沈めてきたのです。
怒りというものは本来向けるべき方向が封じられると、自分に攻撃が向いてしまいます。“自分が悪い”となってしまうのです。
FAPを受けていただくと感情が封じ込められていた扉が開きます。そして抱えてきた怒りをきちんと“正当な感情”として出してあげて、それを大切にしてあげることで、Tさんの自分を責める気持ちはなくなっていきました。その感情を大切にしていいんだという感覚も、FAPを受けていただく前はとても難しかったのですが、徐々にできるようになっていきます。それと同時期くらいから、涙が勝手に出てくることも減りました。
その後、Tさんは同僚の男性がTさんの仕事ぶりをすごいな!と認めていたことを知ります。頑張っていた自分を認めてあげることが出来、男性への不信感も少しずつ取れてきました。
疲れたら疲れたと、出来ないもんは出来ないと、理不尽だと思ったら自分の気持ちを言うことが出来るようになっていきました。
鎧を着ける必要がなくなったTさんは自然体で仕事をするようになり、身体を酷使したりしなくなりました。まだ時々男性の大きな声を聞くとドキッとすることはありますが、流すことが出来るようになっていきました。
※FAP療法を受けていただく回数は個人差があります。