トラウマとは心的外傷…心の傷です
米国精神医学会の『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』によるとトラウマになりうる出来事を「実際にまたは危うく死ぬまたは重症を負う、性的暴力を受ける出来事」
と定義づけています。自然災害、戦争体験、事件、事故、虐待、いじめ、DVなどがこれにあたります。
私はこれに加えて幼少期からの家庭のしつけ、親のあり方や生き方、宗教を含む文化の押し付け、差別、ハラスメント、人と比較される、子ども扱いされる、我慢させられる、プレッシャーを与えられる、からかわれる、いじられる、存在を否定される、無視される、思いを受け入れてもらえない、見下される、裏切られる、助けてもらえない、なども含まれると思っています。
前者の診断基準は生命の危機に伴う恐怖であり
後者は自由意思の尊厳が脅かされる恐怖です。
理不尽な目にあった時に適切な対処がとれなかった時にトラウマとして体に残ってしまいます。逆に適切な対処ができればトラウマ化を回避することができる場合もあります。
実は一見いいことに見えることがトラウマと同じような状態になっていることもあります。
例えばしっかり者で誰からも頼りにされる方、勉強やスポーツが秀でて出来る方などは、どんなに頑張っても当たり前としかみられず努力が才能の影に隠れてしまい苦労をわかってもらえないということがあります。それどころか、羨ましがられたり、妬まれたりすることもあります。
「あなただけが頼りよ!」「いいわね、才能があって」等と言われると、「弱音は言っちゃいけない」「がんばらなくちゃ」「どうせわかってもらえない」と思うようになり、誰かに助けてもらいたくても相談できず孤独の中に辛い気持ちを封印しなければならなくなります。
そうしてフタをして封印されてしまった気持ちは放置され、無視され続けることになるため、やがてはそれが深いところでトラウマになってしまうのです。
また、大事にされすぎたり、心配されすぎるのも心の傷になりえます。「そんなことしたら危ないよ」「大変なことになったらどうするの?」と言われてやろうとしていたことを止められ続けると、本人は「大事にしてるよ」というメッセージと同時に「あなたにやれる力なんてないよ」「あなたのやることは信用してないよ」というメッセージを受け取っていることになるのです。この【あなたは無力】【信用されない】ということが心の傷になってしまうのです。
さらに、経験する機会を奪われてしまっているので、未知の世界に対する必要以上の恐怖や、失敗する恐怖、失敗したときに受けるであろう叱責や嘆きの言葉への恐怖も常に付き纏うようになってしまいます。やりたいことが頭に浮かんできても「危ないかもしれない」「自分にはできないんじゃないか」という恐怖と「どうせまた止められる」「心配かけちゃいけない」というイメージが出てきてしまい、やる前から諦めるようになってしまいます。
では、心の傷があることでどんなことが起こるのでしょう。
激しい症状としてはフラッシュバックというものが起きます。トラウマを受けた時の出来事が、まるで今起きたかのような感覚に陥り、パニックになったり過呼吸を起こしてしまうこともあります。似たような出来事が起きると身体が反応してしまうこともあります。
見た目にわかりにくい症状として、無力感につきまとわれ、自分に自信を持つことが難しくなります。常に不安や恐怖、焦りなどを感じ、人の目が気になって身動きが自由に取れなくなっています。自分が何をしたいのか、何が好きなのかがわからなくなります。
この無力感を潜在的に抱えていると、それを埋めるための行動を無意識に取るようになります。
例えば仕事で評価を上げようと身体が疲れているにも関わらず無理をして何時間でも残業してしまう、人が嫌がる仕事ばかり一人で引き受ける、いくつも資格を取得しているのにさらに次々と資格取得に挑み続けて終わりがない、人と比較して自分が1番になろうとする(ならなければ自分には価値がないと考えています)、自分にしかできない重要な役割を得ようとする(仕事なら役職やプロジェクト責任者、家庭なら親や伴侶、学校なら生徒会役員や学級委員など)、それを得たら手放さないようにと並々ならぬ努力をします。
これも外から見ていると一見ものすごく頑張っていていいことのように見えるのですが、楽しくてやりたくてやっているのではなく、そうしなければ自分の存在理由がなくなってしまうというのが動機なのでつらいのです。
また、いつもなんだか生きづらいという感覚があるとか、なにか理由がないと楽しいことをしてはいけないと感じている、いつも同じようなことでうまくいかなくなる方は、トラウマが深いところに眠っているかもしれません。
精神疾患を患われている方はほぼトラウマが関係していると考えられます。
心的外傷後ストレス障害
急性ストレス障害
解離性障害
強迫性障害
不安障害
うつ病
統合失調症
愛着障害
パーソナリティ障害
など
頭ではそんなに怖がらなくてもいいはずだと理解できてるにもかかわらず、心からそれを信じることが出来なかったり、体が反応してしまい、やはり不安や恐怖から行動をストップしてしまう方もいらっしゃるでしょう。
心の傷がケアされてくると、そのような身体の反応がほぐれてきて、ご自分が大変な中を生き抜いてきたのだということに気付きはじめます。今抱えている問題も、深いところで心の傷が影響を及ぼしていたのだと解ってきます。その傷を負った当時も、その時に思いつく限りの対処法でその場を乗り越えてきたのだということも実感されます。
すると自分に対しての自信やいたわりが出てくるようになり、自分をリスペクトできるようになっていきます。トラウマを乗り越えると、それは自分を支えてくれるものに変わります。無力だと思っていた自己イメージが払拭され、自分の力というものを感じはじめます。
トラウマがどう影響しているのかは、一人ひとり違っています。もともと生まれ持った天性の部分とも複雑に絡んでいます。どこまでが生まれ持ったものなのか、どこからトラウマの影響なのか、判断しにくいところもありますが、言えることは、生まれ持った天性のものであればそれを使うことは苦でなく、いくらやっても疲れ知らず(もちろん身体的な限界はありますが)でどこか喜びが伴うものですが、トラウマが影響してしまうと苦しいものになってしまうのです。せっかく生まれ持った宝物なのにつらいものになってしまってはもったいないですよね。
人が『幸せ』と感じるのは、自分の意志で自分のやりたいことを選択し、実行できている時なのです。やりたいことができるようになってきたら、本当に生きていることが楽しくなります!
ですから、今が本当に苦しくて、出口がないように感じられても、どうか、諦めないでください。そこを抜ける手段はあります!
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